北海道教科研会報　　　　　　　　　１１０号 　　　 　　　　　　 　２００７年７月９日

北海道教育科学研究会（会長　内島貞雄北海道教育大学教授　事務局　池田考司）

連絡先　doukyoukaken@dj.pdx.ne.jp ブログ　http://blogs.yahoo.co.jp/doukyoukaken

●教科研全国大会（東京・和光大学）案内をお送りします！

　今年の教育科学研究会全国大会は、８月８日（水）〜１０日（金）に東京都町田市の和光大学で行われます。案内を同封しますので参加をご検討いただければと思います。

●釧路からの便り�@廣田　健さんから

　前回予告したように、釧路在住の教科研会員の方からのメッセージをこれから連載していきます。今回は、第１回は廣田健さん（北海道教育大学釧路校）です。

最近、おもうこと―釧路における教員養成によせて−廣田健（北海道教育大学釧路校）

昨年末に、戦後民主教育を支えてきた教育基本法の「改正」が強行され、「愛国心」の押しつけと国による教育現場への監視・統制が強められる礎がつくられた。先月には、この教育基本法を具体化するために教育三法の「改正」が行われた。

地教行法は、教育委員会に対する文科相の指示権を背景に、国の教育への直接介入の権限を強めようとしている。学校教育法には、「我が国と郷土を愛する態度」を育成することが掲げられ、この任務を効率的に遂行するために教員組織の階層化を規定した。学校組織は会社組織になぞられ、“ラインとスタッフ”すなわち、政策・方針の立案者とその実施者に厳しく分別され、社長である校長の命令をいかに機敏に実施するべきかが問われる組織に変えられようとしている。教員免許法は、10年毎の免許更新制を定め、政策と異なる視点からの子どもと教育の見方を提起しようとする教師を現場から排除しようとしている。加えて、道教委は、来年から相対評価を前提とした給与査定に結びついた人事考課制を導入する方針を固めているそうである。

これによって、多くの教師たちは、同僚達を仲間としてではなく、同じパイを取り合う競争者として見なすようになるだろう。また彼らは、上長による評価の目を基準に行動するようになるだろうから、政策や方針が子どもと教育の現実と異なると感じた時にも、その方針自体に疑問を呈して修正していくのではなく、現実の方をその方針のもとに無理矢理に押し込めてしまおうとするだろう。彼らにとっては、方針と異なる事態が起こったら、それは現実の方が「間違っている」のである。生徒が問題を起こしたとき、それは共感的に解消されることなく、隠蔽されるか、力ずくで押さえ込む対象となりかねない。そして、この傾向は教育委員会を直接の上長とする管理職についても同様に現れる。

本来、学校とは、子どもたちのリアルな現実に向き合い、日々起こる具体的な事象の中から、子どもたちの心と体の状態をつかみ、時々刻々と柔軟に対処していくことが求められる組織である。そのためには、今、そこにある子どもと教育の状況を多様な側面から論じあい、そのなかから最も適切な方針が立てられるべきである。多様な教育実践が試みられ、検証され、よりよいスキルが共有され、それが日々の取組みに生かされていくべきである。そして少なくとも戦後教育は、現実にこうした教師の日々の取組みと教えあい、助け合いの文化の中で飛躍的に進歩してきた。現在、教育方法の常識となっていることの多くは、こうした教えあいの文化の中で築かれてきたものである。同僚が、競争相手として立ち現れたとき、はたして教師はこうした共同のとりくみを続けることができるであろうか。今、戦後教育の最良の部分が崩されようとしている。

もちろん、一方で我々の取組みが弱かった点があることも事実である。学校は、子どもを中心に、保護者・住民・教師が平場で語り合い、協働して創り上げる共同体であるとしながら、保護者や地域住民に対する参画や問題の共有の具体的道筋はどれだけ開かれてきただろうか。子どもと社会の変化の中で、教師の多忙化がすすみ、本来の責務である授業の用意さえ難しいなかで、競争と格差でストレスを抱え攻撃的になりやすい保護者・住民との関係を取り結ぶことは難しいことだろう。しかし、彼らとの協働無くして、学校と地域の未来はない。子どもという共通の関心を中心にすえながら、学校の状況を語り、地域の状況を理解しながら解決の道筋を見いだす政策的力量の蓄積は始まったばかりである。

また、教師は、日々の授業に追われて、つい安直なスキルやマニュアルに走ってしまい、スキルの想定する状況と現実とのズレに悩んだり、そのズレにあえて目をつぶってしまうことはないだろうか。本来ならば、同じ問題に直面する仲間達と、そうした実践上の課題の解決に勤務時間の大部分をつぎ込みたいはずである。それができない状況は、いったいなにが原因なのだろうか、いかなる解決策があるのだろうか。こういうことを私たちは長期的な視点で対象化しているだろうか。遠回りに見えても、こうした仲間づくり、職場づくりについての展望と努力が現実を切り開く鍵のひとつではないだろうか。

最近の教員養成の重点は、子どもの問題行動そのものへの心理学的・生活指導的な実践スキルの獲得が要請されている。このことは、実際に現場で最も必要とされているものであるので、これから教師になる者がみにつけていることは望ましいことだろう。釧路校が、教育フィールド研究（学校ボランティア等の単位化）やフレンドシップ事業（子どもを中心とした教育文化事業への協力）、へき地教育実習を重視するのは、こうした事例への遭遇のチャンスを望んでいることも一つの大きな理由である。しかし、私たちが現場との係わりを重視するのはそうしたスキルの獲得だけではない。

現場との係わりで得た貴重な経験を、集団での振返りを通じて対象化することで、子どもを見る目を―その置かれている地域や家庭の問題を含めて討議することで―磨いていくことも重視している。スキルは、たいていの場合、個人に付随するものであるが、この振返りは、討議を通じて問題をつかみ、自らの教師としての成長に必要な課題を見いだすこと、仲間の気づきを通じて自分の持ち得なかった視点から子どもをみることによって、教育の新たな可能性を見いだす集団的力量の育成を企図している。言い換えるならば、学生時代に必要なことは、マニュアル的なスキルの獲得ではなく、子どもを見る目、そしてそれを日々磨いていくことのできる集団的な力量の自己教育力である。

釧路校の学生達は、真面目な学生が多い。何事にも真摯に取り組むのだけれど、その態度は「正しいこと」を誰かから教えてもらう、という姿勢である。今必要な教師力はそうではなく、自ら直面する課題の中から「考える教師」力、「問いをもつ教師」力そして、その問いの解決のために「行動する教師」力である。学生自身が、未だ学ぶことが、本当の力になる経験が少なく、学ぶことが生かされた喜びの経験が少ない。彼らは、学ぶ喜びは、知識を銀行預金のようにため込むことだと考えている。従って知識は、一つひとつバラバラで現実に役立たない。それは、学生が物事を社会科学的に関連づけて構造的に見るという点が弱いことにも現れている。私たちの研究室では、まだまだ努力不足ではあるのだけれども、経験を振返り対象化すること、そして得た知識を構造化し、現実と重ね合わせるための働きかけを行っている。問いをもち行動することのできる教師が一人でも増えることを願いながら。

●教育実習指導報告〜教育実習生との関わりから〜 会員（高校・英語）

　2007年度春に，教育実習生（男子大学生・英語）の指導教諭を担当させて頂きました。2003年度卒業生で，英語科では，本校に３名の実習生が来ました。うち一名を私が担当しました。実習中は生徒たちから驚くほど好かれ，飛躍的な成長が見られました。その記録です。なお，私は現在２年生担任で，私の実習生は，普通科２年「英語�U」を中心に担当しました。

■　実習１週間目

　実習一日目の木曜日，別の英語教員が指導教諭になっている教育実習生（英語・男子学生）の初授業がありました。担当教諭が出張中につき，私が「指導教諭」になりました。クラスは１年生です。授業は，体育の後の４校時でした。

　授業内容の概要は，

（１）不規則変化動詞（基本的な語彙レベル）の復習（帯学習）

（２）教科書Ｌ１−３本文音読　※ペアワーク含む

（３）教科書Ｌ１−３重要表現確認（板書）　でした。

　表面上，プログラムをこなすことに主眼がおかれている様子でした。

指導教諭の私に生徒たちは

「どうして，実習生は自己紹介をしないのですか。名前しか名乗っていない……」

と不満感と強い期待感を示していたのでした。彼にとっては初実習で，そこまでの余裕がなかったという現実もありました。

　授業実習後，私は彼と，コーチングを意識して対話をしました。そして，授業内の教育技術よりも，授業を成立させる上での＜原理＞を中心に話してみました。以下にその骨格を示します。

（Ｔ：私，Ｓ：この実習生）

【１】授業の基本はコミュニケーション

Ｔ：まず英語の授業の基本はコミュニケーション。しかし，基本的なコミュニケーションの最初が大きく抜けていました。何でしょうか。

Ｓ：・・・・。

Ｔ：答えは「自己紹介」です。授業は人間と人間との関わり合い。まずは授業者が自己開示をしないと，生徒たちも授業者に心を開けません。折角実習生としてきている本校の先輩なのですから，どんどん自己紹介をしてください。もちろん英語科の授業ですから，使う言語は………わかりますよね。

【２】「教材研究」と「予習」との違い

Ｔ：授業を行う上では，下調べが欠かせません。ただし，「教材研究」と「予習」は違います。教師は「予習」は言うまでもなく，「教材研究」を深めておいてこそ，授業の前提ができます。「教材研究」と「予習」との違いを説明してみてください。

Ｓ：（がんばって，両者の違いを説明しようとする）

Ｔ：整理しますよ。

・「予習」は，教材に関して表面上知っておくこと。英語ならば，単語の意味，各英文の意味（文構造の把握も含む），音読の仕方　など。これは英語教員を志望する者としては，一読すればわかるでしょ。でも「予習」だけでは，授業の前提ができていません。

・「教材研究」とは「学習者（生徒）の視点に立って教材を観た際に，どう見えるかを考えて研究しておくこと。」

例えば教科書本文を一読するだけでも，生徒にとって「課題」となるような箇所はたくさん出てきますよ。

against………生徒は「再び：again」と混同します。Augustと言う生徒もいる？

difficult……生徒は「難しい」とdifferent「違い」をよく混同します。反意語，easyはチェックできていますか。

forgetの不規則変化活用………よく見ると，get-got-gottenが含まれていますね。私ならば，get-got-gottenの部分に下線を引いてもらい，生徒が気づきを生むような発問をします。

may……………助動詞mayと，月のMayとを混同する生徒もいますよ。

などです。学習者（生徒）にとって，学習をする上で考慮したい箇所を確認しておくこと。これが教材研究の大前提です。その上で，授業展開を考えます。

【３】生徒のつぶやき，反応を受け止めながら進めること

Ｔ：ペアでの音読演習で，実習生のあなたが教室内を歩き回っているときに何をしていましたか。

Ｓ：ただ歩いていました・・・。

：重要なのは，教室内を歩きながら，生徒の様子を受け止めること。生徒のつぶやき，反応を受け止めながら，展開をすることです。音読演習の場合は，生徒のつまずきがハッキリと見えてきます。それを学習に持って行くのです。

単なるテクニックで，進行すればよいわけではありません。

【４】＜成長感＞のラインをどう描くか

Ｔ：最初のペア音読では，各活動にどのような「目的」を設定していましたか。

Ｓ：正直，ただこなしていました………。

Ｔ：重要な事項は，各活動を組む際には必ず「目的」を設定し，生徒には「目標」を示すことなのです。そうすることで，生徒自身が＜成長感＞を抱けるようになり，やる気が増してくるのです。私は授業時には「目的」「目標」を示してから，活動を行います。

　課題意識を持って教育実習に来ているので，自分で答えを見つけようとしました。＜原理＞を発見していくため，具現化の段階では，実習生の個性を生かすことが可能です。

５校時，１年生で授業実習を終えた後，彼は私に「先生が言ってくださったことをすべては吸収できていませんが，いくつかは改良してみました。生徒の反応がはるかに良くなっていました。ありがとうございました。またそれぞれの原理の意味を考えてみます」と。

実習生もまた，自分で考えて取り組んでみて＜成長感＞を実感できていたようでした。自分で考えて答えを見つけようとしているので，意欲的になれていました。

■　担当の実習生，初授業を前にして

　私の実習生（男子学生）には，私の授業を観察した後に，授業を通じた気づきを話してもらっています。そしてそこから，私が授業で心がけている＜原理＞を話しています。昨日，翌日の実習開始にあたって，以下の２点や上記の事項を確認しました。

・【活動（動）】と【思考（静）】とを分けること（授業場面に於いて）

………「元気な」授業を求めると，落ち着きがなくなります。生徒は落ち着いて　学びたいもの。体育の後の授業は，【思考（静）】から始めます。

・板書も成長感…私は教科書本文の英文で重要な箇所を板書しておきます。生徒には時間を与え，個別か周囲の人と相談可能にしてあります（個別か，協力を求めるか，生徒が選択する）。私は生徒のつぶやき，疑問点などの声を広いながら，少しずつヒントを板書していきます。生徒は「板書を見たらヒントになる」しかし「自力で取り組みたい生徒は黒板を見ない」という選択肢が与えられることになります。

　私の実習生は，昼休み「給食」（高校は弁当なので，生徒が爆笑）を一緒に食べよう，と教室に行って，生徒といろいろと話しています。授業実習１回目ということで，私の実習生も強い不安感があります。私自身もしっかり支えていきます。

■　担当の実習生，初授業

　授業進度の関係で，第１週の授業は，授業観察だけでした。私は授業観察の後に，実習生に，気づいた点を話してもらい続けました。その気づきに私がコメントしながら，授業を行う際の＜原理＞，生徒と関わる際の＜原理＞を中心に話してきました。＜原理＞を聴いた実習生は，その意味と具体的な行動について熟考しつづけてきました。

　最初の授業を見て，私は彼を褒めました。

「落ち着いて通る声で話しているし，生徒が＜成長感＞を抱けるような安心感のある展開でしたよ」

加えて授業後の振り返りの際に，私は彼にこう言いました。

「まず，自分自身授業で気づいた点をノートに書き出してごらん」

彼は黙々と書き出して，いくつか課題を書きました。問題意識があるので，改善点が自分自身で発見できるのです。私は課題のリストに少しだけコメントをして，終了しました。

彼は言っていました。

「大学で教育実習に関するガイダンスを受けてきたが，それだけではここまで気づけませんでした。先生から＜原理＞を話して頂いているので，考えるための＜眼＞が養われてきました。だから，自分で考えられるようになってきました。」

彼はまた「他の英語実習生の授業を見ても＜眼＞が養われているので，いろいろ気づけるのです」

自分で気づき高まれる「自己教育力」がついてきているようです。

　昨日の初授業には，他の教育実習生３人が来ていました。全員本校の卒業生です。実習生は「英語の授業で，全生徒が相談しあいながら，活き活きと学習に取り組んでいる様子（やんちゃ・おてんばの生徒まで）」を見て，かなりの衝撃を受けていました。

　私は，実習生たちには「生徒の学習権を保証するためです。全生徒が活き活きと学べるように，プリントを使用しながら考慮して授業を組み立てています」と。英語に自信を持てることで，進路の選択肢が広がります。単に英語ができるかどうかだけの問題ではありません。

■教育実習生の失敗・涙

　実習２週目のある授業，生徒に重要英文の解釈をしてもらい，実習生（男子大学生）が解説（生徒とのinteraction）をする授業でした。

　生徒は，いつもの作業ですので，熱心に取り組んでいました。

　実習生は，事前に準備してきた事項として，本文をまず黒板に書く作業に集中し，生徒の様子を把握し，そこから授業に活かす，という基本的なことが抜けてしまいました。最後にようやく生徒と関われて，生徒があまりにもできていなかった英文をいきなりとりあげました。本文では真ん中くらいに書かれている文です。

　Often musicicans could be heard playing there as well.（よく音楽家たちが同様にそこで演奏しているのが聴けました）という英文でした。それを生徒とのやりとりで行おうとするのですが，ぐちゃぐちゃな解説になり生徒が混乱してしまいました。実習生は，そのときの生徒の表情（反応）を見ていたたまれなくなりました・・・。

　放課後，振り返りを教室で行いました。誰もいない教室にくるなり，思いがこみ上げてしまい，泣いてしまいました。私はその感情を受け止めつつ，励まし続けました。彼の想い（向上したいし，一生懸命やっているつもりだが，上手くいかない）を受け止め続けました。その後，私は「自分ならこうするよ」ということで，板書しながらinteractionをしてみせました。その中で＜原理＞をいくつか盛り込みました。

・生徒が間違えそうな箇所を研究し，そこから学びをつくりあげる。

・slow learnerがこの英文を見たら，どういうところで抵抗感を示すかを研究する。

・生徒に気づきを生むために，関連的な知識を示しながらすすめ，生徒の興味関心を高める。

・各英文を教師自身が「面白がって」教材研究をすること。

　教室での振り返り後，実習生はまだ落ち込んでいました。そこで，私は「気分転換に行こう！」と彼を誘いました。約３０�q離れた景観が素晴らしい所まで行きました。

　途中，彼の想いを危機ながら，自分が教師になって失敗したこと，授業で大事にしていること，本校生をどう育てたいか，など，いろいろ話しをしました。

現地でも１時間くらい，車内で語り合いました。

「自分は先生からいろいろ吸収しようとしていますが，なかなか一気には消化できません。でも，先生がいろいろ話してくれて，本当に嬉しいです。」

私は「教師って難しいよね。私もまだまだです。やはり＜人を好きになる＞＜人間心理に関心を持つ＞ことがきわめて重要だと思っています。」と。

結局３時間以上，車内で語り合いました。ドライブを終えた頃には，彼はだいぶ回復していました。

　「人を育てる」ことはかなりのパワーを使います。しかし，英語教師の後輩を育てるというのは，きわめて重要な社会的使命です。教育実習は３週間で，今日が折り返し地点になります。彼が着実に成長していく姿を見ながらの日々は，大変ですがやり甲斐があります。

■「学力」不足に悩む教育実習生

　それから，実習生は授業準備に余念がありませんでした。放課後，実習生仲間に「板書＋説明」の練習をしていました。仲間からは手厳しい指摘が出ていました。

その後，実習生と私で，ＨＲ教室にて「練習」をしました。残念ながら，生徒に指名し，interactする以前に「各英文の意味をわかりやすく説明できる段階」まで行っていませんでした。

聴くと，英語そのものに関して，高校時代も，大学時代も「何となくこんな感じ」という理解でした。実習生自身が心底から理解できた喜びを感じたことがなかったようです。

私は実習生に伝えました。

　生徒には「軸」を示し「英語の見方」を常に統一化させ，どんな英文でも同じような「英語の見方」で接近することが大事と。「軸」として

・単語の知識

・最低，Ｓ＋Ｖ。文構造の把握（生徒には，スラッシュを奨励。）

・「生徒がつまずきそうな箇所」に強弱をつける。・・・これが教材研究

　※「教材研究」と「予習」の違い・・・実習生にはすでに考えてもらっている

以上の事項を統一した指導上の「軸」とするように実習生に伝えました。

「英文によって，説明の『軸』がぶれたら生徒はどう思いますか。各英文毎に理解の仕方が異なると，結局すべてを丸暗記しなくてはならなくなるでしょう」

「各英文の意味をわかりやすく説明できる段階」ができて，教師は次に生徒に指名しながらinteractをしたり，生徒相互で考えてもらう場面の設定を考えられるようになります。

その後簡単に実習生に，授業をしました。

ＳＶＯ＋-INGにおける，O+-ING間のnexus（主述）関係を把握してもらうために，

ＳＶＯＣ

ＳＶＯ to do

ＳＶＯ do（Ｖ：使役動詞，知覚動詞，help）

ＳＶＯ -ING

ＳＶＯ -ed(p.p)

を例文と共に並べて，nexus関係を把握してもらいました。

実習生は大変もう仕分けそうな表情をしていました。私は「大丈夫だ。君が成長したいという気持ちは伝わってきているので，一緒にがんばりましょう」と励ましました。

■「初めて英語が根本から理解できています」と教育実習生

　「ドライブ」の件以来，私は放課後５時過ぎから，８時頃まで教室で「教科指導」＋「練習」をしてきました。実習生はがんばって「予習」「教材研究」をしようとするのですが，破綻しているのです。「学力」不足に依ります。自分では理解できるのですが，それを他者に説明できる状況には至っていません。

「正直，お陰で初めて英語が根本から理解できています」

と，何度も申し訳なさそうにしています。

　しかし，予習と教材研究の違いを意識し，研究してきた成果が発揮されてきていました。随所に教材研究の結果がはっきりと出ていました。生徒へも自信を持って話しをしていました。ゆえに，生徒からは極端な混乱は出てきませんでした。それでもなお，授業を終えると表情がこわばっています。自分の非力さを考えすぎています。私はいろいろと励ましつつも，この困難を是非乗り切ってみて欲しいと思っています。

■教育実習もようやく３週間目

　最終週の初めに，研究授業を行いました。

　私は，自分が担当してきている教育実習生（男子大学生）に対して，＜原理＞を中心にコメントしてきました。

そのことで，実習生自身が自ら回答を求めて思考しようとします。また自分の個性に合わせて，アレンジすることができます。

　研究授業では，授業前に構想してきた事項が，結局上手く発揮できませんでした。過度な緊張により，授業後生徒からも「先生が緊張しすぎてしまっていたので，私たちも緊張してしまっていまいました」と。

　実習生は「自分が創り出す雰囲気によって，生徒たちの雰囲気も変わるのですね」「過度な緊張により，生徒に発問をすることができなかったので，翌日の授業では，生徒に指名することを重視したいです。いろいろ試行錯誤しながらやってみたいです」と。＜原理＞を踏まえて，自らcreativeに思考し，実践しようという意欲が沸いています。

　他の実習生の授業授業を参加する時間が取れました。「このパートをＣＤのスピードである『５１秒』以内に読めるようにしよう」という目標を明確に指示し，そのための活動を組み立てていました。表面的なtraining方法を様々に工夫している様子でした。

　私はコメントとして「目標の提示により，生徒はそれに向けてがんばる，という具体的な努力がイメージできます。いろいろなtraining programを『こなす』とは大事でしょうし，そのprogramを思考するのも大事でしょう。加えて＜原理＞としては，

（１）生徒の様子を直視しながらすすめること（生徒の実態なしのprogram消化では，生徒に応じた授業の再構成ができない）

（２）＜成長感＞をどう考えるか

　　　・本文が読めずに仮名を一生懸命振っている生徒たち

　　　・間違えそうな単語を間違えずに読む手だてがあると，もっと読めるよう

　　　になる生徒たち

（３）そのための＜教材研究＞（＜予習＞ではない）をどうするか

　　　・音読上の＜教材研究＞……生徒が間違えやすい箇所，克服ポイントなど

　私はこの実習生の授業を先々週（実習開始時）に参観しました。そのときに，授業展開のための＜原理＞を話しました。彼は，それが印象に残っていたらしく，それを踏まえて授業を組み立てようと努力してきました。昨日見たこの実習生には「語尾を止めるように，明確にはっきりと自信を持ちながら生徒に話しをしていて，生徒は安心感を感じていました」と，この実習生の「成長の事実」を伝えました。

　＜原理＞を学べば，自分なりのcreativeさを活かして，行動したくなるのですね。実習生は，自分なりに課題意識を持って，向上したいという姿勢でいます。実習生は，向上の方法論が自ら発見できていることに，喜びを感じているようです。

教育実習はあと４日間になっていました。私自身も，自分の＜原理＞を再認識させられている貴重な機会ですし，何しろ若い教育実習生になつく生徒たちの様子をみるのは，嬉しい限りです。私は最後まで，coachingでencourageします。

■教育実習が終了して

　終了直前２日間，私は札幌に出張でした。最終日は「高体連大会」でした。その日はクラスの２２人が公欠で不在でしたので，実質その前日でクラスの多くの生徒とはお別れになりました。私は不在でした。

　２４日（木）帰りのＳＨＲ時に，ＨＲ委員長（女子）から，実習生に色紙が渡されました。それも何と２枚！　１枚目で女子たちが書き尽くしてしまったため，足りなくなったのでした。この生徒たちの心遣いにすっかり感激し，彼は大泣きをしてしまいました。生徒たちはその様子をみて，中には泣き出してしまった生徒たちもいました。

　私は彼に言いました。「こうした良い結果となったきっかけは，君の行為だよ。自ら昼食時間に弁当を持って行き，生徒たちの輪に入り，話を聴いたからです。生徒が夢中なこと，進路の事，部活動の事，授業の事を聴き，いろいろ話した情報を元に授業を組み立てたそうですね。話を聴かれたことにより，生徒たちは君に心を開いていったのです。」

　最終日の夜は，教育実習生お疲れ様会という打ち上げを行いました。実習生たちの担任団が企画して，私も参加しました。会場の居酒屋では，この教育実習生のお母様が働いていらっしゃいます。お母様は，私に仰いました。

「息子がこうした良い別れができた後ろには，先生が，普段クラスにしていることがあるからです。『クラスだより』を見させて頂きましたが，毎週生徒の声（ＨＲ日誌上での，生徒と担任とのやりとりを掲載）を載せたり，息子と生徒たちの集合写真を即「たより」にしてくださったり（出張の関係で出張前日に集合写真を撮影し，夕方出発の出張当日朝に「たより」としてカラー印刷で発行））といった，細かな配慮があるからだと思いますよ。」

　ある日の朝，私は彼から弁当を頂きました。彼のお母様が私に作ってくださった弁当なのです。びっくりしました！　お母様のこうした姿勢により，息子も他人への気配りができる人になっていると思います。

実習最終日，彼の周りには，多くの生徒たち（特に女子たち）がやってきて，記念撮影を求めていました。１度しか授業に行かなかったクラスの女子たちからも，記念写真を求める声が数多くありました。

実習日誌の「感想」から彼の言葉を引用します。

「（実習の）後半になるにつれて，生徒と一緒に授業を作っていき，楽しくなっていきました。授業にも生徒にも全力でぶつかって行きました。その分，自分にとって辛いことは多くあったけど，今は少し達成感があります。現実から目をそらさず，逃げ出さずに前に向かって進んでいったのは，数少ないことなので，今回の経験は自分にとって大きな財産になるだろう。全力でぶつかることで，生徒は少しずつ心を開いてきてくれて『先生』などと呼んでくれるようになりました。」

■「先生とはお別れではありません。これからもよろしくお願いします」

　この３週間，私は彼と多くの時間を共有しました。私は彼の想いを受け止めながら，時には辛口のコメントと具体的な改善案（テクニックではなく＜原理＞）を示しつつ，彼の頑張り・良くなったところを具体的に指摘し続けました。

彼が「学ぼう」「吸収しよう」という姿勢のところで，私は，彼の＜気づき＞を大事にできるように＜原理＞を示し続けました。考えるきっかけが与えられたことで，彼は一つ一つの＜原理＞の意味を自分自身に問い続けたのでした。

　教育実習生最終日，帰りのＳＨＲを終えてから，私たちはＬＬ準備室という，普段使われていない部屋に行きました。二人のみの空間が必要だと，私が察したからです。ＬＬ準備室に入るやいなや，彼は私に対して泣き出しながら，握手を求め続けました。私はそのまま握手をしつつ，彼の感情を受け止めつつ，彼の想いを聴き続けていました。

　私は３週間で彼の心情は十分に理解していたので，今後も定期的に連絡をとり，会うことを約束しました。「ドライブ」で彼の想いを受け止め，お互いに更に心を開いたのでした。「心を開く」ということの意義を私自身も考えさせられました。

　前述した「教育実習生お疲れ様会」を私は途中で退席しなくてはなりませんでした。彼は外まで見送りに来てくれて，最後まで握手を求めてきながら，自分の想いと感謝の念を話してくれました。

「本気」の人間を裏切るわけには生きません。同時に私自身も彼や生徒たちを裏切ることのないよう，謙虚に教育実践を続けて行かなくては！と決意を新たにしました。

「自立した教師になるために」今回の教育実習生には，コーチングを大事にしながら，彼の気持ちを受け止めつつ，励ましてきました。私が教育実習生から学んだ事項は数多です。今一度，教師としての原点を考えさせられました。私も彼に感謝です。ありがとうございました。私自身も高校生や，保護者，同僚との対応に於いて，常に謙虚にいきたいです。教育実習生の彼を裏切らないためにも。

　道民教との全国学力テストシンポジウムについて

　道民教との共催での全国学力テストシンポジウム（６月９日実施）は、学校現場からの声、保護者からの意見、研究者の分析と多角的な検討を行うことができました。詳しい内容については、道民教とも相談の上、紹介していきたいと考えています。なお、道教科研ブログで若干の紹介を行っています。

　２００７／２００８年度会費よろしくお願いします

　北海道教科研の会計年度は教科研全国大会開催日を区切りとしています。この会報の発行や研究会の講師謝礼等を会費で対応しています。新年度の会費２，０００円をいただけると助かります。直接の手渡しか８０円切手２，０００円分、あるいは現金書留２，０００円を事務局宛お送りください。どうぞよろしくお願いいたします。